Public domain via Wikimedia Commons
このドラマ解説にあたり以下の点にご留意ください。
・登場人物、地名の日本語表記及び聖書引用は主として日本聖書教会「新共同訳」に準拠します。
・脚色の多いドラマです。混乱を避けるために聖書に実際に登場するシーン、人物名は白色で記載します。
そうでない部分は聖書に明記されていないことをご了承ください。
シーズン1パイロットエピソード「The Shepherd(羊飼い)」はこちらからご覧になれます。←Click!!
シーズン1シリーズに先立つ出来事を記した特別版です。
足の悪い男が、杖を突きながら小羊を1匹連れてよろよろと歩いています。
彼は羊飼い、仲間と一緒にベツレヘム(Bethlehem)の町を目指していました。歩みの遅い彼はどうやら仲間たちから疎まれているようです。
ローマ皇帝アウグスト(Augustus Caesar)の時代でした。当時ユダヤはローマの属国として重税を課せられ苦しんでいました。一日も早く、この圧政から解放してくれる救世主(メシア:Messiah)の現れるのをユダヤの人々は約束の言葉を読みながら待ち続けていたのです。
エフラタのベツレヘムよ
お前はユダの氏族の中でいと小さき者。
お前の中から、わたしのために
イスラエルを治める者が出る。
彼の出生は古く、永遠の昔にさかのぼる…(ミカ書5:1)
今、彼らの向かっているベツレヘムの町で救世主は生まれる、と聖書には約束されていました。
ベツレヘムは市が立ち大賑わい、羊飼いたちは自分の連れて来た羊を売りに来たのです。買い取ってくれるのは宗教指導者たち。羊は礼拝の供物として買われるのです。
彼は自分が連れて来た羊を見せながら訊ねます。
「メシアは本当にユダヤをローマから解放してくれるというけれど、本当にそういう事なのでしょうか?」
羊飼いごときが何を言う、と宗教指導者は取り合いません。羊飼いは当時、最下層の身分の人々でした。毎日聖書を学ぶという彼を、分不相応な奴めと見下しています。
おまけに彼が連れて来た小羊は怪我をしていて買い取れない、と突き返されました。供物としての小羊は傷のないもの、と決められています。こんなものを持ってきた上に生意気な口をきくとは何事か、お前みたいなのがいるからメシアはなかなか来てくださらないのだ、場合によってはお前たちは今後出入り禁止にする、とまで言われる始末。とばっちりを食らった仲間たちも腹立たし気に彼をののしりながら先に行ってしまいます。
置いてけぼりを食らった上に、転んでひどく腕をすりむいてしまいました。途方に暮れていると、礼拝堂の中から聖書を読む声が聞こえてきます。
闇の中を歩む民は、大いなる光を見
死の陰の地に住む者の上に、光が輝いた。
あなたは深い喜びと
大きな楽しみをお与えになり
人々は御前に喜び祝った。…(イザヤ書9:1~2)
そう、メシアというのは単にローマの占領から解放してくれるだけじゃなくて、闇に光を照らしてくださるようなお方なんだ!と読まれる言葉に心躍らせながら中に入ろうとする彼を係りの者が押し止めます。すりむいた腕から血が流れ、床を汚しました。出血など、体液を流すものは「穢れた者」として忌み嫌われていたのです。しかも身分の低い羊飼い、追い出されてしまいました。
追い出されて落ち込んでいる彼は、見知らぬ男性に声を掛けられます。「井戸はどこにありますか?妻はもう何時間も水を飲んでいないのです。」男性の連れているロバにはお腹の大きな若い女性が乗っています。向こうにあるよ…と教えてから、ふと思い出して自分の水筒を手渡します。笑顔で受け取り美味しそうに飲む女性。彼らはガリラヤ(Galilee)地方のナザレ(Nazareth)の町から来たと言います。何も良い物がないと評判の悪い町ナザレ、大声で言わない方がいいよ、俺も誰にも言わない、秘密は守るよ、俺の名前はシモン(Simon)だ。
秘密、という言葉に夫婦は微笑み、意味ありげに見つめ合います。お腹をそっと包みなおす妻。妊娠していることをあまり知られたくないようです。
彼らと別れ、シモンは帰路を辿ります。
会堂ではメシア到来の約束の言葉が読まれ続けていました。
弱った手に力を込め
よろめく膝を強くせよ。(中略)
神は来て、あなたたちを救われる。
そのとき、見えない人の目が開き
聞こえない人の耳が開く。
そのとき、歩けなかった人が鹿のように躍り上がる。(イザヤ35:3~6)
ローマの圧政に苦しむユダヤ人には「メシア=ローマを倒してユダヤを解放してくれるヒーロー」という図式がすっかり定着し、宗教指導者たちもそれを信じておりました。
しかし、聖書にあらわされているメシアは、その型に当てはまらない、より大きな存在と記されています。シモンが期待しているように、苦しむ人々、悩む人々全てを解放し、病を癒してくださる存在がメシアなのです。
②に続きます。