ルツ

 











ヤン・フィクトルス「ルツとナオミ」
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 ルツという女性を主人公とした物語「ルツ記」があります。
 
物語の始まりはあるユダヤ人夫婦と二人の息子が、飢饉のためにモアブという外国に移り住むところから始まります。一家の長エリメレクは早くに亡くなり、長じた二人の息子たちはそれぞれその地の女性を妻に迎えます。その一人がルツです。長男の嫁という説もありますが、定かではありません。
 
そして残念なことに、この二人の息子まで亡くなります。この家に男手がなくなってしまいました。
 
 男性が家族を養い守るのが当然の時代、夫を亡くした女性は再婚するか、周りの人の温情にすがって生きるより他はありませんでした。エリメレクの妻ナオミは、嫁たちと別れて、生まれ故郷へ帰ることを決めます。まだ若い嫁たちは同国の男性と再婚するのが一番良いと思ったのでしょう。
 
 ところが嫁姑は相当円満だったらしく、嫁たちはナオミから離れたがりません。説得の末、一人は泣く泣く去って行きましたが、ルツは頑固にナオミから離れず、とうとうイスラエル(ユダヤ)までついて来てしまいました。二人なら心強いとは言え、これからどうやって食べていきましょうか?
 
 ユダヤには、畑の収穫時に落ちこぼした穂は拾うなという教えがあります。収入の得られない人(未亡人、体の弱い人など)がそれを拾って自分の食料とするためにです。社会福祉の原点と言われています。ルツは早速それを実行しました。お義母さんのためならエンヤコラ。出来た嫁です。
 
 それと知らずにルツが落穂拾いに行った畑は亡き義父エリメレクの親戚、ボアズの畑でした。姑についてイスラエルまでやって来た外国人嫁ルツの評判を彼も知り、献身的な彼女を彼も親切に支えます。
 
 お似合いですねぇ…というだけではない二人の関係を結ぶために、今度は姑ナオミが動きます。
 
 男性の絶えてしまったエリメレクの家はこのままでは消滅し、財産は親戚に相続されることになります。ボアズはその相続の権利を持つ一人です。もし彼とルツが結婚し、男の子が生まれればエリメレクの家名と財産はその子に引き継がれるのです。嫁と家の幸せのチャンスが一度にやって来ました。
 
※蛇足ですが、この時ボアズが妻帯者であったかどうかは不明です。この時代一夫多妻はありでした。
 
 ナオミの助言でルツはボアズに逆プロポーズします。そして今度はボアズが男を見せます。彼女の求婚を受け止めつつ、自分以上に相続権のある親戚を出し抜かないために、きちんと話をつけてくることにしました。結果としては親戚の側が相続を辞退し、二人は結婚します。めでたしめでたし♪
 
 一見良い人ばかり出てくる良いお話のようですが、ルツ記の本領は最後に発揮されます。ルツとボアズの間に生まれた男の子は、ユダヤ王国を確立させたダビデ王(ミケランジェロ作の像でお馴染みですね)の祖父となります。そしてダビデ王の末裔として生まれたのが「イエス・キリスト」です。純血にこだわるユダヤ人家系に生まれたイエスの祖先の一人に、名もなき外国人女性がいるということは、神の子イエスが特定の民族や身分にとらわれない、全ての人々のための救い主として生まれて来るというメッセージを含んでいます。美談の裏にある神さまの手引き、これがルツ記の醍醐味なのです。










ミケランジェロ「ダビデ」
 By Livioandronico2013
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